本研究ではイリオモテヤマネコ、ツシマヤマネコの2種のヤマネコに主にテレメトリー法を適用することによって、各個体の行動圏に関する長期的調査を複数個体について行なった。また、ノネコを含む他の哺乳類の血縁判定で成果を上げているフィンガープリント法の野生ネコ科への適用の可能性を探る試みを行なった。 イリオモテヤマネコについての調査は、沖縄県竹富町西表島において、テレメトリー法、直接観察法、自動撮影法、各種情報整理による行動圏の調査、直接観察による個体間関係の調査を行なった。雌雄それぞれの行動圏の維持、母仔関係、行動圏の継承に関する資料が得られ、特にコアエリアを中心とする雌の行動圏の利用様式とその決定要因としての低湿地の重要性、雄の行動圏と主要餌動物との関連が明らかになった。また、雄の質による定住性等の差も分析することができた。これらはイリオモテヤマネコの社会の構造の中で重要なファクターとなるものである。また、これまで社会維持機構に関わる要因の解析の上で重要でありながら情報が得られていなかった繁殖スケジュールや繁殖システムに関しても明らかになりつつある。捕獲時に採取した血液によって、DNAフィンガープリント法による血縁解析も行なった。 ツシマヤマネコについては行動圏に関する直接の資料は得られなかったが、長崎県対馬において痕跡法を用いて糞の分布と内容物の分析から行動圏の利用に関する知見を得た。 これらの成果をこれまで得られてきた2種のヤマネコに関する資料とともに解析し、さらに従来継続してきたノネコの社会構造に関する資料とともに考察することにより、ネコ科社会の可塑性についての考察を試みた。これを発展させて、ネコ科の社会進化についてまとめる計画である。
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