C-N balanceからの生態学

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04804053
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 東 正彦 京都大学, 生態学研究センター, 助教授 (40183917)
• キーワード: C-Nバランス / 生態系 / 海洋生態系 / 湖沼生態系 / 珊瑚礁生態系 / 理論モデル / 数理モデル / 栄養動態

研究概要

本年度は、つぎの2つの問題を“C-N balance"のアイデアの観点から扱い、以下の進展と展望をみた。
1.生態系の栄養動態システムに関して
(1)海洋および湖沼生態系において、植物が、とり込めるNに対応する以上に光合成によって作り出してしまう余剰のCを、EOC(細胞外排出炭素)として「垂れ流す」ことに着目し、通常のgrazing food chain、microbialgrazing food chain、detrital food chainのそれぞれの相対的な発達の度合いがどのような機構・要因によって左右されるかを説明する概念的モデルを得た。
(2)生態系における“C-N balance"プロセスに着目することによって、森林、草原、(海洋・湖沼などの)水域の3系について、生態系機能(栄養動態あるいはエネルギー・物質循環)における構造的差異を浮き彫りにできることを理論的に示した。
2.珊瑚礁生態系(生物群集)の発達機構に関して
(1)珊瑚礁生態系(生物群集)がどのようにして発達するか、その機構を“C-N balance"のアイデアに基づいて説明する動的モデルを得た。
(2)このモデルによって、珊瑚礁生態系の発達を促進(または逆に阻害)するいくつかの条件・要素を明らかにした。とくに、富栄養条件、セディメントの増加はともに珊瑚礁生態系の発達を阻害するという予測を理論モデルから得た。
本研究では、生態学上のいくつかの問題に、“C-N balance"のアイデアを適用し、多くの新結果を得た。これらの成果は“C-N balance model"の一般的有効性を示し、一つのパラダイムとして発展する可能性を示唆するが、それを見極めるには一層の探究を要する。本研究において多くの理論的予測(仮説)が“C-N balance model"から導出された。従って、次の具体的な課題は、これらの理論的仮説の実験的検証にある。

研究成果

• [文献書誌] Higashi,M.;Patten,B.C.;Burns,T.P.: "Network trophic dynamics:the mode of energy transfer and utilization in ecosystems." Ecological Modelling. 66. 1-42 (1993)
• [文献書誌] Higashi,M.;Burns,T.P.;Patten,B.C.: "Network trophic dynamics:the tempo of energy movement and availability" Ecological Modelling. 66. 43-64 (1993)
• [文献書誌] Higashi,M.;Yamamura,N.: "What determines animal group size:insider-outsider conflict and its resolution." The American Naturalist. 142. 553-563 (1993)
• [文献書誌] Abe,T.;Higashi,M.: "Cellulose dynamics and termite ecology as key factors determing teirestrial community structure." In:Development of a Unified Perspective on the Organization of communities and Ecosystems.140-156 (1993)
• [文献書誌] Higashi,M.;Yamamura,N.;Nakajima,H.;Abe,T.: "Producer-decomposer matching in a simple model ecosystem:a network coevolutionary approach to ecosystem organization" In:Development of a Unified Perspective on the Organization of communities and Ecosystems. 125-139 (1993)
• [文献書誌] Higashi,M.: "An extension of niche theory for complex interactions" In:Mutualism and Community Organization.