本研究は、イシサンゴにおいて機能的な組織適合性がいつ発現するのかを明らかにすることを主な目的とした。ハナヤサイサンゴの幼群体間の接触反応を観察し、組織非適合性反応が時間とともに変化するかを調べるとともに、アザミサンゴの4つの色彩変異型を用いて接触実験を行い、得られたキメラ群体の性質を調べることを試みた。 ハナヤサイサンゴでは、癒合、非癒合、非適合癒合の3つの接触反応が見られた。非適合癒合は、組織は連続しているものの、境界部に共生藻の少ない白い帯域が見られるという点で通常の癒合とは異なっていた。さらに非適合癒合を示すペア-の骨格は連続しているものの、境界部に溝がありその両側に突起状構造が向き合うように並んでいた。非適合癒合を示すペア-では、境界部の白い帯域の拡大に伴い一方または両方の幼群体のポリプが吸収されることが観察された。非適合癒合を示したペア-の多くは、2〜8カ月後に非癒合へと移行した。この場合境界部の両端から骨格に切れ込みが入り、両方の幼群体が間に骨格の壁をつくることにより非癒合へと移行した。 アザミサンゴの異なる色彩を示すポリプ間においても、癒合の起こる場合があり、癒合により形成されたキメラ群体は安定で、約6カ月の観察期間中に2つに分離することはなかった。キメラ群体の遺伝的組成を調べるために、アロザイムの電気泳動を試みた。共生藻だけを集めて超音波処理して抽出した場合は、サンゴをホモゲナイズした場合と異なるバンドを示したので、今回用いた試料破砕法ではサンゴの酵素のみが抽出されたと考えられる。キメラ群体を構成した群体について、18種の酵素について電気泳動を行ったが、そのうちの8種でのみ解釈可能なバンドが得られた。しかし今回キメラ群体を形成したペア-は、これら8種の酵素について同一の電気泳動パターンを示したため、キメラ群体の遺伝組成を調べることはできなかった。
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