1979年以来深海の熱水噴出孔周辺には、フジツボ類の現存する最も原始的な3つの亜目の種類が生息することが明らかになってきた。本研究ではフランスの潜水調査船「ノーチル」が南西太平洋トンガ諸島南のラウ海盆の水深1900mの熱水噴出孔から採集した今までに熱水噴出孔に発見されていなかった第4番目のブラキレパドモルファ亜目のフジツボを研究した。この分類群は後期ジュラ紀に出現し、中新世に絶滅したと信じられていて、まさに「生きた化石」で、新属新種であった。外部形態はこの分類群に固有の特徴を備えるが、軟体部はすでに発見されていた他の熱水フジツボ類に共通する特徴である深海の微かな流れによって運ばれる微小な餌を食べるのにふさわしい非常にデリケートな蔓脚と口器を備えていた(収斂現象)。 また前3亜目と同様に、個体発生の段階で筋肉の柄を持った段階(個体発生の有柄類段階)を経ることが分かった。フジツボ類の系統発生は有柄類段階から、筋肉の柄を失う無柄類段階に進化したと考えられてきたが、この個体発生の特徴はその系統発生を表していると考えられる。現在、外海の潮間帯に生息する原始的なフジツボであるカメノテの個体発生と比較した。個体発生の過程は両者に共通し、最初の石灰化した殻を持つ段階は5枚殻からなり、6枚、8枚と順次増加することが分かった。
|