研究概要 |
1.海洋古環境復元のための硫黄同位体地球化学的指標の確立:硫黄還元バクテリアによる硫酸イオンの硫化水素への還元過程では,-25±10 0/00の同位体効果(^<34>S/^<32>S分別)が生じる。しかし,堆積系に固定されるバクテリア源硫化物の同位体比は,堆積盆のバクテリア生態系と酸化還元条件に大きく左右される。硫黄酸化バクテリアの存在しない強度に無酸素的な堆積盆では,硫黄還元バクテリアによる硫酸イオンの還元過程のみが一方向的に行われるため,固定される硫化物は環境海水硫黄に対して常に-25±10 0/00の分別を示す。一方,硫黄酸化バクテリアの卓越している富酸素的堆積盆では,いったん生成したバクテリア源硫化物が再び酸化還元サイクルを経るため,最終的に固定される硫化物は典型的には-50±10 0/00の分別を示すことが期待される。以上の推論から,堆積成硫化物の同位体的バイモーダリズムが古海洋堆積盆の酸化還元条件を復元するための直接的な地球化学指標となり得ることを指摘した。 2.生物大量絶滅期の海洋古環境の復元:わが国の代表的絶滅層準において堆積成硫化物の時系列的同位体比変動パターンを世界で初めて詳細に記載し,上記指標を応用して絶滅期の海洋酸化還元央を復元した。現時点で得られつつある成果は以下の通りである。 (1)白亜紀/第三紀境界:強度の海洋無酸素症(Oceanic anoxia)が白亜紀末に突然生起し約7万年間にわたって継続したことが示された。 (2)古生代/中生代境界:ペルム紀新世初期からトリアス紀初期に至る無酸素的成層海洋の出現と,境界期における一時的な同成層海洋の崩壊イベントが明らかになった。 (3)セノマニアン/チューロニアン境界:中生代の同境界期の海洋は,かなり長期にわたって貧酸素〜無酸素的な条件下にあったことが明らかになりつつある。
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