生物大量絶滅期の海洋古環境復元に関する硫黄同位体地球化学的研究

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04804066
• 研究機関: 筑波大学
• 研究代表者: 梶原 良道 筑波大学, 地球科学系, 教授 (80015578)
• キーワード: 大量絶滅 / 硫黄同位体 / P / Tr境界 / K / T境界 / 海洋無酸素症 / 成層海洋 / 硫黄還元バクテリア / 同位体効果

研究概要

昨年度は北海道川流布K/T境界セクションにおいて、同境界期(65Ma)に発生し約7万年間継続したoceanic anoxiaを実証した。本年度は、顕生代を通じて最も顕著な生物大量絶滅のあったことが知られているP/Tr境界期(265Ma)の海洋古環境史的背景を解明すべく、近年わが国で相次いで確認された同境界を含む連続外洋性堆積物シーケンス(徳島県木沢村天神丸セクションおよび兵庫県篠山セクション)を対象としてシステマティックな硫黄同位体地球化学的研究を行なった。得られた成果は以下の通りである。
1.堆積成〜続成硫化物の^<34>S/^<22>S比は、ペルム紀中世〜ペルム期新世初期を通じて一般に低く-39〜-25〓(vs.CDT)の値を示すが、ペルム紀新世中期頃から顕著に増大しトリアス紀初期まで-20〜-2〓(vs.CDT)の値を示すことが明らかとなった。更に興味ある現象として、P/Tr境界において急激かつ極端な^<34>S/^<32>S比の減少(-41〜-23〓vs.CDT)のエピソードを挟んでいることが確認された。
2.上記データにより、ペルム紀新世中期からトリアス紀にかけての長期間にわたり無酸素底層水素の発達した成層海洋が形成されていたこと、および、P/Tr境界期においてこの成層海洋の一時的な崩壊混合現象のあったこと、が明らかとなった。
3.硫化物含量及び親銅元素含量はトリアス系下底部において異常濃集していることが確認された。この事実は無酸素成層海洋の一時的な崩壊混合に伴う必然な現象の一つであるとみなし得る。
4.C/S含量比(有機炭素/黄鉄鉱硫黄含量比)は現世の通常堆積物の与える回帰直線に一致せずその両側に分布する二つの対象的なグループを構成している。これらのグループはそれぞれ現世淡水成堆積物および黒海還元性堆積物のC/S含量比トレンドを示しており、硫黄同位体的に復元された当時の異常な海洋古環境史的背景の妥当性を補強する証拠となる。

研究成果

• [文献書誌] Kajiwara,Y. 他3名: "Sulfur isotope data from The Permian/Triassic boundary at Tenjinmaru in The Chichibu Terrane in eastern Shikoku,Japan" Ann.Rep.,Inst.Geosci.,Univ.Tsukuba. 19. 59-65 (1993)
• [文献書誌] Kajiwara,Y. 他3名: "Sulfur isotope data from the Permian/Triassic boundary at Sasayama in the Tanba Terrane in central Honshu,Japan" Ann.Rep.,Inst.Geosci.,Univ.Tsukuba. 19. 67-71 (1993)
• [文献書誌] Kajiwara,Y. 他4名: "Development of a largely anoxic stratified ocean and its temporary massive mixing at the Permian/Triassic boundary" Palaeogeogr.Palaeoclimatol.Palaeoecol.105(印刷中). (1994)
• [文献書誌] Kajiwara,Y.: "Ocean biogeochemical controls on the Kuroko ore genesis:a review" 地球科学. 特集号(印刷中). (1994)