研究概要 |
世界の堆積岩系に保存されている硫化物の^<34>S/^<32>S同位体化が顕著なバイモーダリズムを呈している事実に着目し、それが海洋堆積盆の酸化還元央(OXIC-ANOXIC HISTORY)を復元するための有効な地球化学指標になり得ることを指摘した。即ち、好気性バクテリアの存在しない無酸素海盆では、海水硫酸イオンの還元過程のみが一方向的に行われるため、生成する硫化物の海水硫酸イオンに対する^<34>S/^<32>S比の分別度は常に還元バクテリア異化作用の同位体効果の範囲内(-25±10〓)にあるはずである。しかし好気性バクテリアの卓越する富酸素海盆では、いったん生成した上記硫化物が再び酸化-還元のサイクルに組み込まれるため、最終的に固定される硫化物の分別度は上記同位体効果の範囲を大きく越え、現世大洋底で知られている如き値(-50±10〓)に集束する。 この硫黄同位体地球化学指標をわが国の生物大量絶滅境界堆積シーケンス(北海道川流布K/Tセクション,徳島県天神丸P/Trセクション京都府篠山P/Trセクション等)に適用し、これら生物大量絶滅期における海洋古環境の復元を試みた。その結果、恐竜絶滅で巷間の興味を集めているK/T境界(65Ma)では、有機炭素含量の高い境界粘土層の沈積に伴って開始し約7万年間継続した顕著な海洋無酸素症の発生が証明された。一方、顕生代を通じて最も大規模な大量絶滅のあったとされるP/Tr境界(260Ma)では、ペルム紀新世初期に開始しトリアス紀初期まで継続したグローバルな無酸素成層海洋の形成とまさにP/Tr境界において生起したこの成層海洋の一時的な崩壊混合現象が実証された。これらの成果はいずれも世界に先がけて得られた新知見であり、生物大量絶滅の原因と結果をめぐって展開されている世界の学界のホットな論争に対して重要な束縛条件を与えるものである。
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