研究概要 |
前年度までの計算機によるシュミレーションの結果,メスバウアー分光法の測定の効率化を実現するために,アダマール変換を導入しマルチプレックス化を行うことは,吸収率の小さなスペクトルの測定の場合と測定時間が短くS/Nが悪い場合に著しいこと,すなわち測定時間の短縮に有効であることが明らかになった。 本年度は主として,通常のドップラー速度Vの他にVcosθ_1,Vcosθ_2,…でエネルギー変調されたガンマ線を利用することにより線源光量を増加させ,アダマール変換型分光器を設計する問題に取り組んだ。他の分光法に使われているように,巡回行列の要素に対応する同心円状のアダマールマスクを備えたスリットを線源と試料の間に置き,アダマール変換されたスペクトルを測定する方法である。しかしながら,スリットの開口部の半径を固定すれば,測定チャンネル毎にVcosθ_1とVcosθ_2の差は異なり,この方法による測定では正しいアダマール変換は行われないことが判明した。従って,このような方式では測定チャンネルごとにスリットの開口部の半径を変化させる必要があり,大きな次数のマスクの使用は困難になる。このようなスリットをガンマ線を透過させない材料で作製することも容易ではないと思われる。 本研究において確認されたアダマール変換によるノイズ除去の効果は文字認識などのデータ処理の問題にも応用された。
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