流れを制御して航空機、船舶、流体機器の性能の向上を目指す研究は、現在に至るまでに数多くなされてきた。本研究は翼の表面を微小振動させ、この微小振動によって流れを制御し、高迎角での翼の空力特性の向上を計ることを目的とした実験的研究および数値計算による理論的研究である。 実験では最近の合成化学の発達により開発された新素材、ポリフッカビニリデン(三フッカエチレンの共重合成高分子フィルム(PVDF))に電圧を印加し、分極の向きが反転し応力を生じる強誘導体の特性を利用する。このPVDFを翼模型上面に張り付け、翼表面を微小振動させて、境界層に運動エネルギーを与え高迎角時の空力特性を測定した。また、数値計算による流れのシミュレーションでは、2次元翼(NACA0012)の周りの流れ場を、薄層近似ナビエ・ストークス方程式を差分法を用いて解き、翼表面の微小振動が流れに及ぼす影響、空力特性向上の効果を調べた。まず、風洞実験では、失速角付近での揚力が増大し、抗力が減少することを確かめた。だが、表面振動振幅が小さかったため当初予想した失速角を遅らせることはできなかった。なお、振動振幅が100Hzのとき、その効果は最もよく現われた。 次に、数値計算では流れ場を薄層近似したナビエ・ストークスの方程式を差分法によって解き、翼表面での境界条件として与えた微小振動の効果を調べた。その結果、失速角近傍において、揚力係数が増加することを認めた。また、実験結果ともおおむね一致した。ただ、仰角α=11゚ および12゚において揚力係数がかなり減少する結果が得られ、この原因については、今のところ不明である。
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