一般に大陽からの短波放射(いわゆる日射)は地面、海洋で暖め、その表面は赤外線の長波放射や熱伝導の形態で水蒸気湿度を持った大気に熱を供給する。この結果、周囲大気との間に密度差と浮力が発生し、この不安定性が引き金となり、上昇流の発生→断熱膨張→気温の低下→水蒸気の凝結→雲の発生→潜熱の発生→浮力の強化が続き、大気不安定を継続させることとなる。このような大気の循環をコントロールした環境の下で再現することを目的として雲と降雨の形成過程の実スケールの実験を行なってきた。実験場としては、現在廃抗になっている直径6m、深さ700mの鉱山の立坑を利用している。立坑内では、大型ファンにより常時2m/sの程度の上昇流が発生しており、上述した大気不安定が模擬されている。研究代表者らは、平成4年度、この立坑を利用して世界で初めて断熱膨張→気温低下→水蒸気の凝結→雲の発生→降雨という自然界での大気循環を観測することに成功した。本年度は3回の実験を実施して、雲の形成に関して温度の鉛直プロファイル、湿度の鉛直プロファイル等の熱力学的データや風速、気圧を測定することができた。これらの実験結果を要約すると以下のようにまとめることができる。 1.雲は過飽和状態にならなくても発生する。これは、いわゆるラウール効果を実際に検証するものである。 2.温度の高度分布は理論的に求まる潜熱を考慮したものとよく一致している。 また、降雨モデルの改善に関して従来から用いられている降雨モデルのパラメタリゼーションを本実験のデータを用いてシュミレーションし新しいパラメータの特定した。このパラメータを用いることによって本実験を数値上で再現することができた。
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