Rh、Pdに配位したチオラト基は求電子反応剤と反応してC-S結合形成を行なうことが期待される。ホスフィン配位子をもつRh、Pdチオラト錯体の反応性を検討し、反応機構の詳細を明らかにするとともに、C-C、C-S結合形成を鍵段階とする新規合成反応の開発を行なった。具体的に以下の成果を得た。 1 パラジウム、ロジウムのチオラト錯体を合成し、構造解析を行なうとともに有機ハロゲン化物との反応を行なった。各種の基質においてC-S結合形成反応によるスルフィドが生成した。反応速度の測定からこれがチオラト配位子の求核性に基づくものであることを明らかにした。 2 パラジウムチオラト錯体を中間体とすると考えられるジチオールとジアセチレンの重付加反応を行ない、ポリ(ビニル)エステルを得た。この高分子はラジカル反応による重付加反応生成物とは全く異なる選択性で生成物を与える。これにより、各種の新規高分子化合物を合成することができた。反応の機構についても検討を行ない、アセチレンが反応条件で異性化したのち付加をうけることを見いだした。 3 炭素と同族のケイ素配位子を用いてロジウムチオラト錯体のヒドロシランとの反応によるケイ素-硫黄結合形成反応を見いだした。チオラトロジウム(I)錯体とジフェニルシランとの反応においてSi-S結合形成反応がおこり、シリルチオエーテルが生成した。この反応について反応速度の検討を行なったところ、反応はロジウム錯体濃度に一次の速度式にしたがい、基質の置換基効果、重水素を用いた同位体効果の検討から反応はチオラト及びシリル配位子の還元的脱離を含むものであり、従来提案されたシリレン中間体による反応ではないことを明らかにした。 この他にも同様な金属錯体を用いてハロゲン化アリールのカップリング反応、イミダゾール環の形成反応等についても新たな知見を得、新規合成反応の開発に応用した。
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