標題にある機能分子の設計を行ない、生体物質との反応を行ない、成果を得た。 1)DNAとの反応:DNAの酸化的損傷は癌化、老化などとの関連から興味がもたれ研究が進められてきた。DNAの酸化的損傷の分子レベルでの解析は旧来より行なわれ、DNAの酸化損傷物も単離、同定されてきた。そうした化合物のなかでDNAの活性酸素による酸化で生成する8-ヒドロキシデオキシグアノシンはその発生位置で点突然変異をおこすことが判明おり、幅広く興味がもたれてきた。しかしながら、生成に関連する分子量論的研究はほとんどすすめられてこなかった。そこで、わたしは自身で分子設計した長波長光照射下においてヒドロキシルラジカルを発生する化合物(光フェントン試薬)を用い、光照射条件下における8-ヒドロキシデオキシグアノシンの生成を詳細に調べてみた。8-ヒドロキシデオキシグアノシンの生成は化合物濃度の増大とともに増加するが、ある一定量以上の化合物濃度以上では、生成が減少してくる事実が判明した。このことは生体系においてごく微量のヒドロキシルラジカルが発生すればそこで点突然変異が誘発される可能性を示唆するものである。 2)蛋白質との反応:蛋白質のヒドロキシルラジカルによる酸化的損傷を眼のクリスタリン蛋白質を用い詳細に調べたところ、トリプトプファンの位置での酸化の促進が認められた。 3)移植効率:光フェントン試薬による酸化的損傷が生体にとり致命的であるか否かを探る目的で大腸菌へのファージの移植実験を行なった。光フェントン試薬と処理したファージは大腸菌への移植効率が著しく低下した。このことは光フェントン試薬による損傷(ヒドロキシルラジカルによる損傷)が生体にとり致命的であることを如実に示すものである。 以上の実験事実より、生体物質の酸化的損傷の解明にここで開発した分子が非常に有力な武器であることが判明した。
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