研究概要 |
1.無機陽イオン交換膜を使用した電気透析系の殺菌効果 前年度にゾル-ゲル法を用いた無機陽イオン交換膜の製法を確立した。本年度は無機陽イオン交換膜を使用した殺菌用電気透析系を組み殺菌効果を評価した。厚さ1cmの塩化ビニル製の中空のセルを用いて5室の透析槽を組み、殺菌の場となる中央の脱塩室の隔膜を無機陽イオン交換膜および有機陰イオン交換膜とした系(ICM-OAM系),有機陽イオン交換膜と有機陰イオン交換膜を使用した系(OCM-OAM系),対象として無機陽イオン交換膜の基膜であるイオン交換官能がないアルミナ膜と有機陰イオン交換膜とした系(AIM-OAM系)の3種の透析系を構築し、大腸菌(E.coli K-12 W3110)を10^8cells・ml^<-1>の濃度で懸濁させた試料水を流しつつ、電流密度等の透析条件を種々変えて透析を行い、殺菌効果を評価した。 まず、同一電流密度(1.09A・dm^<-2>)で0〜60分間透析を行い、経時的に採取した処理水の平均生菌率を比較すると、OCM-OAM系が10%であったのに対し、AIM-OAM系では0.0001%、ICM-OAM系では0%であり完全に殺菌されていた。この結果から、有機陽イオン交換膜を使用した系よりも無機陽イオン交換膜を使用した方がはるかに殺菌効果が強いことは明らかであり、さらに基膜であるアルミナ膜を使用した系との比較から、イオン交換能を付与することにより、格段に殺菌効果が増すことが判明した。 また、本殺菌法は交換膜に液膜界面における水解現象を利用したものであり、この現象は限界電流密度以上の電流密度で透析した場合に起る。OCM-OAM系,AIM-OAM系,ICM-OAM系について、完全殺菌できる電流密度条件を比較した結果、OCM-OAM系では限界電流密度の約1.66倍の電流密度を必要としたのに対し、AIM-OAMでは1.45倍、ICM-OAM系では1.15倍であり、格段に低い電流密度で完全殺菌が可能であることが判明した。 以上の結果は、本研究で開発した無機陽イオン交換膜を使用した透析系の殺菌効果が良好なのは、単に無機膜の限界電流密度が低く水解現象が起きやすいためだけではなく、同一電流密度では有機膜よりも強い水解現象が起きていることを示しており、これは水殺菌用実用電気透析系の確立において、コスト的に非常に有利な事実であると考える。
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