ウイルス感染植物に現れる病徴は、ウイルスの遺伝子と宿主植物の遺伝子が複雑に相互作用した結果として現れるものと考えられている。病徴発現機構を明らかにするためには、病徴発現に関与する植物遺伝子を単離、解析することが重要であると考え遺伝子タギング法による植物病徴発現遺伝子の単離を行った。タバコとキュウリモザイクウイルス(CMV)を用いたこれまでの研究より、タバコの緑黄色変異遺伝子が病徴発現に関与することが確認されている。そこで、T-DNA taggingにより得られたアラビドプシスの緑黄色変異体(53種)をアラビドプシズ種子バンク(オハイオ州)より入手し、CMV-Yに対して激しい病徴を示すがCMV-0に対してほとんど病徴を示さない変異体を5株分離した。これらの変異体はすべて単一遺伝子の変異によることが確認されており、またサザンハイブリダイゼーションの結果T4の各個体にT-DNAが存在したことから、得られた5変異体はT-DNAの挿入による遺伝子破壊の結果生じたものと考えられた。この5変異体よりプラスミドレスキュー法によりT-DNAの挿入を受けたゲノム断片の単離を試みたところ、4変異体よりゲノム断片を回収することができた。次に、それらの中から1クローンを選び、それをプローブとして野生型アラビドプシスのゲノムライブラリーよりT-DNA挿入を受けた遺伝子全体の単離を行ったところ、約10kbのゲノム断片を含むクローンが3種類得られた。このクローン断片中には病徴発現に関与する宿主遺伝子が含まれている可能性が高い。今後、このクローンの構造解析を行うとともに、それをプローブとしてアラビドプシスcDNAライブラリーよりcDNAを単離し、そのcDNAを35Sプロモーターに連結して変異型アラビドプシスに形質転換することにより、得られたクローンが病徴発現に関与する遺伝子であることが確認できるであろう。
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