本研究では、(1)キュウリモザイクウイルス(CMV)とタバコを用いて病徴発現に伴う宿主植物の生理、生化学的変動を解析するとともに、(2)遺伝分析により病徴発現を支配している遺伝子座の同定を行い、さらにその結果にもとずき(3)遺伝子タギング法を用いて、CMV感染アラビドプシスにおいて病徴発現の引き金となる植物遺伝子の単離を試みた。 (1)キュウリモザイクウイルス感染タバコ葉における生理、生化学的変動。 CMV(Y)接種タバコ葉における病徴発現の一因として、葉緑体チラコイド膜の光化学系II・酸素発生系を構成する22、23kdタンパク質の低下により、酸素発生活性が阻害され、光合成能の低下と葉緑体機能の低下するプロセスがあることが明らかになった。 (2)キュウリモザイクウイルス感染タバコ葉において病徴発現を支配する宿主遺伝子の解析。 CMV(Y)接種葉における激しい黄色病斑の発現を支配している遺伝子は、緑黄色変異遺伝子であるバーレー遺伝子自体であると考えられた。 (3)遺伝子tagging法を用いた宿主病徴発現遺伝子単離の試み。 タバコとキュウリモザイクウイルス(CMV)を用いたこれまでの研究より、タバコの緑黄色変異遺伝子(バーレー遺伝子)が病徴発現に関与することが確認されている。しかし、タバコはゲノムサイズが大きくバーレー遺伝子を単離することは非常に難しい。そこでゲノムサイズが小さなアラビドプシスを用いて病徴発現に関与する遺伝子を単離する計画をたてた。T-DNA taggingにより得られたアラビドプシスの緑黄色変異体(53種)をアラビドプシス種子バンク(オハイオ州)より入手し、CMV(Y)に対して激しい病徴を示すがCMV(O)に対してほとんど病徴を示さない変異体を5株分離した。この5変異体よりプラスミドレスキュー法によりT-DNAの挿入を受けたゲノム断片の単離を試みたところ、4変異体よりゲノム断片を回収することができた。次に、それらの中から1クローンを選び、それをプローブとして野生型アラビドプシスのゲノムライブラリーよりT-DNA挿入を受けた遺伝子全体の単離を行ったところ、約10kbのゲノム断片を含むクローンが3種類得られた。このクローン断片中には病徴発現に関与する宿主遺伝子が含まれている可能性が高い。病徴発現機構を解明するためには、バーレー遺伝子や、病徴発現に伴い変動する他の植物遺伝子をクローニングし、コードするタンパク質の機能を解析すると共に、その発現とウイルス外被タンパク質との関係などを研究することが必要である。遺伝子タギング法によりアラビドプシスから黄化病徴に関与する可能性があるゲノムクローンを単離した。今後、このクローンの構造解析を行うとともに、それをプローブとしてアラビドプシスcDNAライブラリーよりcDNAを単離し、そのcDNAを35Sプロモーターに連結して変異型アラビドプシスに形質転換することにより、得られたクローンが病徴発現に関与する遺伝子であることが確認できるであろう。
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