前年度に引き続き、これまでに昆虫の防御物質として報告されている既知化合物とそれらの類縁体について抗菌活性の有無を検討した。今年度はさらに4種類の糸状菌を追加し、合計7種類を供試菌類とした。供試化合物は40化合物であり、そのうちの脂肪族炭化水素およびアルコールのほとんどは強い抗菌活性を示さなかった。一方、不飽和結合を有するテルペン系炭化水素類と同アルコール類は比較的高い活性を示した。アルデヒド類はアルコールよりも活性が高く、芳香族酸やクレゾール類にも強い抗菌活性が観察された。さらにゴミムシダマシ類やゴミムシ類の防御物質としてのキノン類はいずれも高い抗菌活性を示した。4種類の昆虫から得たヘキサン、アセトン、水抽出物の抗菌活性の有無を6種類の糸状菌を用いて調べた結果、最も高い活性を示したのはアカヘリテントウの抽出物であり、これらの抽出物には極性の異なる抗菌性成分の存在が考えられた。またイエバエ、キボシカミキリ、モモノゴマダラノメイガ幼虫のへ抽出物には弱いながら有意な抗菌活性が認められた。 以上の結果から、昆虫の防御物質として知られている化合物には抗菌活性を有するものがあること、さらに防御物質の存在が知られていなかった昆虫の抽出物中にも同活性を示す成分が含まれている可能性が示された。従来、昆虫は彼らの捕食者や寄生者に体する防御目的で、種々の化合物生合成と分泌機構を進化させてきたと考えられている。しかし、本研究で得られた結果は、このような防御物質の一部は昆虫が生息する環境において、多くの微生物から攻撃対する防御機能をも備えていることを強く示唆するものである。
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