各種泥炭土及び泥炭地植物を試料とし、フェノール性化合物、脂肪酸、ステロール、中性糖組成の環境指標としての役割を検討した。本年度は、ステロールおよび中性糖組成を中心に研究した。 泥炭土から検出されたステロールはβ-シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール等の植物由来のものがほとんどを占めた。富栄養的な環境の下で生成した生花苗低位泥炭土では、微量のコレステロールが検出された。ミズゴケのステロール含量は非常に少なく、これを反映して、ミズゴケを主要な構成植物とする高位泥炭層のステロール含量は低かった。しかし、草本を主体とする高位泥炭層のステロール含量は高く、以下、中間泥炭、低位泥炭の順に減少した。泥炭のステロール中最も多く含まれたのは、β-シトステロールであった。しかし、泥炭構成植物中では比較的割合の低かったスティグマステロールは、泥炭中では割合が増加し、特に、低位泥炭層中でその割合が高くなった。 構成植物の糖組成は、草本および木本植物では、一般にキシロースの割合が最も高く、次いでグルコース、アラビノース、ガラクトース、マンノースの順に多く含まれた。ミズゴケおよびヤマドリゼンマイでは、グルコースに次いで、ガラクトース、マンノース等が多く含まれた。従って、泥炭土においては、マンノースおよびガラクトースを土壌微生物量の指標の一因子として用いることは因難である。泥炭土の糖含量は高位泥炭、中間泥炭、低位泥炭の順に減少する傾向にあった。各断面とも、最表層はグルコースの割合が非常に高かったが、下層に向かって減少する傾向が認められた。他方、キシロースやアラビノースを主体とする本来のヘミセルロース成分は、年代の経過した下層の泥炭層ほど増加した。さらに、量的には少なかったが、泥炭土中のセルロース型糖の糖組成も、構成植物の種類と良い対応関係を示した。
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