動物の系では、ホルモンや生長因子等の生体外情報が、細胞膜に存在するシグナル伝達系で増幅され、セカンドメッセンジャーであるサイクリックAMP(cAMP)やサイクリックGMP(cGMP)等を介して、細胞の諸機能を制御することが知られており、生物の最も重要な課題の一つになっている。しかるに、植物の系では、シグナル伝達系の解析は遅れており、cAMPおよびcGMPの作用機構は殆ど明らかにされていない。動物の系でも、シグナル伝達の最終ターゲットは依然として不明である。筆者らは、細胞増殖が盛んになるためには、タンパク質生合成の活性化が必須と考え研究を進め、ペプチド鎖伸長因子EF-1のβサブユニットをリン酸化し、活性化するβ-kinaseおよびその制御因子を発見したので、シグナル伝達系におけるこれらの因子の機能を解明する。 β-kinaseおよびβ-kinase制御因子に関し、以下の諸性質を明らかにした。 (1)β-kinaseは、質量が36Kdで、ATPおよびGTPの両者ともリン酸供与体として利用し、heparinで阻害されること等からcasein kinase II類似の酵素であることを明らかにした。 (2)β-kinaseは、粗酵素段階ではcAMPで阻害され、cGMPで促進されるが、酵素の精製が進むにつれて、両ヌクレオチドの影響は消失した。 (3)β-kinase制御因子を、ほぼ均一にまで精製することに成功した。 (4)精製したβ-kinaseに、β-kinase制御因子を添加すると、β-kinase活性がcAMPで阻害され、cGMPで促進されるようになった。
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