有機溶媒中でリパーゼが行うアシル化においては、従来種々のエステル類が使用されてきた。特に反応を非平衡で行う工夫として、エノールエステル等の活性エステルが使用されてきた。本研究においては、酵素の新機能開発の観点から、先のアシル化剤とは大きく構造の異なるシリルケテンを取り上げ、その適応範囲を検討した。これに続き、対称性分子構造を有する環状酸無水物の酵素による不斉モノエステル化を実施した。環状酸無水物については、光学活性メバロノラクトン及びその類縁体(ホモメバロノラクトン、フルオルメバロノラクトン)を合成ターゲットとし、各種3位置換3-ヒドロキシグルタル酸無水物を系統的に合成した。酵素の選択は3-メチル体を用いて実施し、細菌由来のリパーゼ、アマノPSに良好な活性を見い出した。生成したモノエステルについては、そのエステル部を水素化ホウ素リチウムで還元した後、環化させてメバロノラクトンを良好な収率で得た。その光学純度は光学活性なユーロピウムシフト試薬によるNMR検定で60〜70%であることが分かった。また、3位置換基を変化させ順次大きくさせていくと、反応性が減少し、またその立体選択性も著しく低下した。3位置換グルタル酸無水物について観測した以前の結果と今回の実験結果を考えあわすと、リパーゼの活性部位に収容されるには、グルタル酸無水物の3位置換基としては、少なくともひとつはメチル基よりも小さいものである必要があることが分かった。
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