今回は、溶液熱力学を援用して農産物中の水の解析方法の確立を目的として、レタス、糖類、デンプンを用いた実験をおこなった。まず、簡易恒温恒湿デシケータを作成して、グルコース・マルトース・サッカロースを用いた吸着実験を10℃で相対湿度を0%から100%まで10段階に変えて行った結果、糖類ー水溶液系が周囲水蒸気圧と平衡に達する相対湿度(約90%付近)以下では、通常の結晶構造の場合吸着が生じないがアモルファス状態では溶液系からの連続状態としての吸着が生じる事が判明した。また、アモルファス状態の吸着の解析には吸着ポテンシャル理論が有効である事も明らかとなった。また、糖類ー水溶液系の水分状態の解析に必要な活量係数を求めるため、今回購入した1/100温度トレーサを用いて、濃度を変えてこれら糖類水溶液の凝固点降下を測定し、この結果3種類の糖類溶液の活量係数を計算した。これら糖類の結果を基にして、同様の水分吸着実験を同じ実験条件で用いて、レタスに対して行った。レスタの場合、水分含有量が約96%と大きいため、平衡する相対湿度は90%以上となる。このため、相対湿度が約90%以上では糖類での溶液系の実験結果と同様の傾向を持ち溶液熱力学が有効な事、相対湿度が低い場合には糖類のアモルファス状態への収着と同様吸着ポテンシャル理論が有効な事が明らかとなった。また、水分吸着実験で同時に得られた、24時間毎のレタス水分変化曲線を解析して水分移動係数を求め、非平衡熱力学の考え方を用いて係数の内部構造を解析した。この結果、レスタの水分移動係数解析にも溶液熱力学の適用が可能な事が示され、レタス細胞内の膜抵抗がレタスの劣化ともない小さくなると水分移動係数が大きくなることが判明した。最後に、とうもろこしデンプンを用いて糖類、レタスと同様の実験条件で水分吸着実験を行い、デンプンの水分吸着にも溶液熱力学、吸着ポテンシャル理論が適用可能な事を示した。
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