PCR法によるウシ胚の性判別を行つための新しいY染色体特異的DNAプローブを作成する目的で、顕微切断-PCR法を組み合わせて、ウシY染色体DNAライブラリーの作成を試みた。まず、去勢雄牛の白血球を、70時間培養後ビンブラスチンにより分裂中期停止処理を行い、染色体標本を作製した。次に倒立顕微鏡下で、マイクロマニピュレーターに装置したガラス針を用いて、Y染色体を切断・回収し、オイルチャンバー内で、DNAの抽出および制限酵素による切断を行った。これに合成リンカーおよびプライマーを結合させ、PCRによりDNAを増幅した。PCR産物をベクターに入れ、コンピーテント細胞に形質転換してDNAライブラリーを作成した。 顕微切断したY染色体由来DNA断片の増幅が可能であり、これまでクローニングにより65個のインサートが得られた。このうちコロニーハイブリダイゼーションにより1個、またドットハイブリダイゼーションにより2個、計3個の雄特異的DNA断片が得られた。これらを、さらにサザンハイブリダイゼーションにより、特異性を検討した結果、雄特異的DNAクローン1個(BDYD62)が得られ、塩基配列の決定を行った。 PCR法によるウシ胚の性判別の手法を確立し、体外受精由来ウシ胚盤胞の栄養外胚葉細胞の一部を切断し、これを用いてPCRにより性判別を行った。その結果、雌雄肝臓DNA断片を用いてPCRを行い、雄のみに雄特異的DNA断片(157bp)の増幅が認められた。これをウシ胚に応用した結果、胚抽出液でも同様に雄特異的DNA断片が同位置に検出され、胚においてもPCRにより性判別が可能であることが示された。今後、本研究で得られてDNAプローブを用いたPCRにより、胚及び精子の性判別の可能性が示された。
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