超伝導技術の進歩により、脳が発生する極めて微弱な磁界を検出することが可能となった。この方法は、時間分解能および空間分解能に優れており、非侵襲的にヒトの脳機能を計測する方法として注目を集めつつある。本年度は、単純な随意運動の脳内機序を探る目的で、光に応じて指の屈曲を行うという課題を遂行中のヒトから、脳磁界の計測を行ったところ以下のような結果を得た。 指の運動に際して運動側とは反対の頭蓋に、次のふたつの成分の脳磁界が観測された。第一の成分は頭蓋の内外側方向に極性が逆転しており、運動の開始に先行していた。第二の成分は、第一の成分と極性が逆で、運動の開始より遅れていた。脳内電流源推定により、第一の成分は中心溝の周辺に存在する前向きの電流双極子に由来すると考えられた。サルなどの運動実験の結果より、これは、小脳から視床を経由した運動命令によって、活性化された運動野上肢領野の活動を反映しているものと推定される。第二の成分は感覚野の活動に由来し、主に運動することによる、感覚性入力のフィードバックを反映していると考えられる。また手のかわりに、たとえば下肢や顔面の運動をさせると、それぞれに対応した運動野と感覚野の活動が、観測された。 要約すると、小脳から視床を介した神経活動による運動野の活性化が、運動発現に際してヒトにおいても重要である。 以上の結果は、脳磁界計測がヒトの脳機能解明に有力な手段を提供することを示すとともに、今後、認知、判断、記憶、言語などのヒトの高次脳機能解明への端緒になると考えられる。
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