脳磁場計測によるヒトの高次脳機能の研究

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04807008
• 研究機関: 岡崎国立共同研究機構
• 研究代表者: 南部 篤 岡崎国立共同研究機構, 生理学研究所, 助教授 (80180553)
• 研究分担者: 長峯 隆 京都大学, 医学部, 助手 (10231490)
• キーワード: 脳磁場 / 体性感覚誘発脳磁場 / 視覚誘発脳磁場 / 高次脳機能 / 非侵襲的脳機能計測 / 超伝導量子干渉素子

研究概要

超伝導技術の進歩により、脳が発生する極めて微弱な磁場を検出することが可能となった。この方法は、時間分解能および空間分解能に優れており、非侵襲的にヒトの脳機能を計測する方法として注目を集めつつある。本年度は昨年度に引き続き、単純な反応時間運動に関する脳磁場を記録するとともに、ヒトに体性感覚及び視覚刺激を与えた場合の脳内反応を、脳磁場計測によって検討した。
(1)正中神経を電気刺激すると、潜時約20msと60msに、対側の一次体性感覚野上肢領野起源と思われる誘発脳磁場が観測された。過去の動物実験の結果などにより、第一の成分は、視床から一次体性感覚野深層へのシナプス入力を、第二の成分は、一次体性感覚野内の回路による皮質表層へのシナプス伝達を反映していると考えられる。また両側の側頭部に潜時約60msと80msの反応が見られ、電流源がシルビウス溝周辺に推定されることから、これらは二次体性感覚野起源の反応であると考えられる。
(2)視野の一点に光刺激を与えた場合の誘発脳磁場を、後頭部を中心に計測したところ、潜時約75、100、150msに反応が観察された。それぞれの潜時での等磁場曲線のパターンは、視野の中での刺激部位によって著しく変化した。これらのうち、潜時約75msの成分の電流源を推定すると、一次視覚野と思われる領野に位置した。視野内での刺激部位を変えると、この電流源は、過去の動物実験等で知られている一次視覚野の視野局在性に一致した挙動を示した。これらのことにより、潜時約75msの成分は、一次視覚野由来と考えられる。
以上の研究は、脳磁場の由来について、明確な解釈を与えるとともに、知覚、認知といった高次脳機能計測の基礎になるものと考えられる。2年間にわたる本研究において、知覚の基礎的な情報処理、あるいは単純な運動制御に係わる脳内機構についての、基礎的な研究を行ったので、今後これらを発展させ、学習、記憶などの、更に高次な脳機能の解明にあたりたいと考えている。

研究成果

• [文献書誌] Nambu A,.: "Magnetic fields in the cerebral cortex associated with visually initiated finger movements in human brain." Advances in Biomagnetism,Abstract. 146-147 (1993)
• [文献書誌] Nambu A,: "Movement-related activity in the pallido-thalamo-cortical loop." Biomed Res. 14 Suppl 1. 31-35 (1993)
• [文献書誌] Sasaki,K: "Cortical activity specific to no-go reaction in go/no-go reaction time hand movement with colour discrimination in monkeys and human subjects." Biomedical Research. 13 Suppl 1. 5-9 (1992)
• [文献書誌] Sasaki K,: "Prefrontal activity on-go decision." Advances in Biomagnetism,Abstract. 158-159 (1993)
• [文献書誌] Sasaki K,: "No-go activity in the frontal association cortex of human subjects." Neurosci Res. 18. 249-252 (1993)
• [文献書誌] Sasaki K,: "Dynamic activities of the frontal association cortex in calculating and thinking." Neurosci Res. (印刷中). (1994)
• [文献書誌] Yoshida S,: "The distribution of the globus pallidus neurons with input from various cortical areas in the monkeys." Brain Res. 611. 170-174 (1993)
• [文献書誌] 南部篤、: "視覚始動性反応時間運動に伴うヒト大脳皮質活動の磁場計測." 第8回日本生体磁気学会大会論文集. 162-165 (1993)
• [文献書誌] Jinnai K,: "Cerebello-and pallido-thalamic pathways to area 6 and 4 in the monkey." Stereotactic and Functional Neurosurgery. 60. 70-79 (1993)
• [文献書誌] 南部篤、: "脳磁場計測よるヒトの脳機能研究." Medical Imaging Technology. 11. 472-482 (1993)
• [文献書誌] 南部篤: "脳磁場計測(MEG)によるヒトの感覚運動機能の解析." 神経研究の進歩. (印刷中). (1994)
• [文献書誌] 佐々木和夫: "NO-GO電位の電気生理学的および磁気生理学的研究" 第7回日本生体磁気学会大会論文集. 5. 36-39 (1992)
• [文献書誌] Sasaki K,: "Activity of the prefrontal cortex on no-go decision and motor suppression.Motor and Cognitive Functions of the Prefrontal Cortex." Springer-Verlag, (1994)
• [文献書誌] Jinnai K,: "The two separate circuits through the basal ganglia concerning the preparatory or execution processes of motor control.Role of the Cerebellum and Basal Ganglia in Voluntary Movement." Elsevier, 286 (1993)