超伝導技術の進歩により、脳が発生する極めて微弱な磁場を検出することが可能となった。この方法は、時間分解能および空間分解能に優れており、非侵襲的にヒトの脳機能を計測する方法として注目を集めつつある。本研究では、ヒトに体性感覚及び視覚刺激を与えた場合の脳内反応および、単純な随意運動の脳内機序を、脳磁場計測によって検討した。 (1)正中神経を電気刺激すると、潜時約20msと60msに、対側の一次体性感覚野上肢領野起源と思われる誘発脳磁場が観測された。第一の成分は、視床から一次体性感覚野深層へのシナプス入力を、第二の成分は、一次体性感覚野内の回路による皮質表層へのシナプス伝達を反映していると考えられる。また二次体性感覚野起源の反応も捉えられた。 (2)視野の一点に光刺激を与えた場合の誘発脳磁場を、後頭部を中心に計測したところ、潜時約75、100、150msに反応が観測された。これらのうち、潜時約75msの成分は、一次視覚野由来と考えられ、視野局在性を示した。 (3)光に応じて、指の屈曲を行うという課題を被験者に課すと、指の運動に際して運動側とは反対の頭蓋に、2つの成分の脳磁場が観測された。第一の成分は、頭蓋の内外側で極性が逆転しており、運動の開始に先行していた。第二の成分は、第一の成分と極性が逆で、運動の開始より遅れていた。第一の成分は、小脳から視床を経由した運動指令によって活性化された運動野上肢領野の活動に、第二の成分は、感覚性入力のフィードバックによって活性化された感覚野の活動に由来していると考えられる。 以上の結果は、脳磁場計測がヒトの脳機能、特に高次脳機能の解明に有力な手段を提供することを示している。本研究において、知覚の基礎的な情報処理、あるいは単純な運動制御に係わる脳内機構についての基礎的な研究を行ったので、今後これらを発展させ、学習、記憶などの、更に高次な脳機能の解明にあたりたいと考えている。
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