1.分離心筋細胞をもちいて、アノキシアによる心筋細胞の形態変化と遊離脂肪酸の蓄積に対するβ-遮断薬d1-プロプラノロールとβ-遮断作用のないd-プロプラノロルールの効果について検討した。 2.心筋細胞はラット心臓から分離した。アノキシアはN_2でバッファーを飽和するとともに、解糖系の阻害薬である2-オキシグルコースをくわえた。 3.アノキシアにより心筋細胞は桿状から球状に変化し、桿状心筋細胞の全細胞数に対する割合は、時間とともに減少し、アノキシア30分で10%であった。遊離脂肪酸は、アノキシアにより有意に上昇した。特に16:1、18:21、20:4の不飽和遊離脂肪酸の増加が著しく、アノキシア30分でアノキシア前の12倍から17倍に増加した。 4.d1-プロプラノロールならびにd-プロプラノロールはいずれもアノキシアによる心筋細胞の形態変化を抑制した。 5.d1-プロプラノロールならびにd-プロプラノロールはいずれもアノキシアによる遊離脂肪酸の蓄積を抑制した。 6.β-遮断作用の弱いd-プロプラノロールが効果を示したことから、β-遮断作用以外にいわゆる「膜安定化作用」も、アノキシアによる細胞障害から心筋を保護するのに重要であることが示唆された。膜安定化作用のひとつとして、アノキシアによる細胞膜構成リン脂質からの脂肪酸の切り出しを抑制する作用もあると考えられた。
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