我々は増殖因子受容体の1つ、IGF-II受容体が直接G蛋白と共役すること、IGF-II受容体の細胞内領域の14アミノ酸残基(2410-2423)の合成ペプチド(ペプチド14と呼ぶ)が直接G_<i2>を活性化することを証明した。さらに、β-アドレナリン受容体の細胞内領域に直接G_sを活性化する配列(βIII-2)も同定した。この発展として今年度は、G_<i2>蛋白上の受容体刺激受容部位を同定し、それを利用して、G_<i2>を介する増殖シグナルの制御を試みた。 調べた結果、G_<i2>αサブユニット上C端の3残基を除いた15残基の合成ペプチド(ACG_<i2>と呼ぶ)がペプチド14によるG_<i2>活性化を容量依存性に抑制することを発見した。次に、赤白血病培養細胞にACG_<i2>を処理することによりDNA合成量の著明低下をきたすことを発見した。さらにG_<i2>発現の異常上昇が認められる心筋症モデルラットの腹腔内にACG_<i2>を定期的に注入することによって心筋病変の著明改善が見られることも組織学的に証明した。以上のことは、ACG_<i2>領域がG_<i2>αの受容体刺激受容部位であることを示唆している。次に、G_sαサブユニットについてもG_<i2>αと同様の部位(ACG_sと呼ぶ)がG_s活性化ペプチドによる活性化を抑制することを見いだした。培養細胞膜系でのcAMP産生刺激をACG_sが抑制することも証明した。 現在G_<i2>αやG_3αはproto-oncogone productとして知られており、今後ACG_<i2>やACG_sを細胞内に導入することによって増殖シグナルを制御するとともに、発癌機構の解明を目指す。
|