我々の教室でクローン化した鶏リボソーム蛋白L7a及びL37a遺伝子の5'上流配列にはETS癌遺伝子ファミリーの結合部位と考えられる部位が見い出されていた。また多くの発癌組織においていくつかのリボソーム蛋白の過剰発現がみらることが報告されており、発癌とリボソーム蛋白発現の間に何らかの相関が考えられた。そこでL7a及びL37a遺伝子上流にある癌遺伝子産物の結合配列が実際に機能していることを本研究で明らかにした。L37a遺伝子の転写開始点上流-65〜-59及び-45〜-39領域にはETSファミリーの結合配列が見られるが、これらの領域を欠失させると、COS-1細胞を用いたCAT assayでは最大活性の約2%までプロモーターとして活性が低下することを明かにした。DNaseIによるFootprint法では-72〜-61及び-48〜-33領域が鶏ヒナの肝臓より調製した核蛋白質の結合によって保護されることがわかった。この二つのETS結合領域に結合する蛋白質間には相互作用があって、それによってDNAとの特異的結合を強めることをGel shift assayによって明らかにした。このL37a遺伝子のプロモーターのETS結合領域はL7aプロモーターのEST結領域とも競合する。このようなETS結合領域はマウスL30、L32遺伝子でも報告されており、ETS蛋白は広くリボソーム蛋白遺伝子の転写因子として働いているものと考えられる。ETS蛋白ファミリーについては現在、10種類以上のものが明らかにされているが、リボソーム蛋白遺伝子に作用するものはどのメンバーであるか未だにはっきりしていない。今後、ETS蛋白のサブユニット構造、DNAとの結合様式、組織内分布を調べ、その本態を明らかにしたい。
|