研究概要 |
ヒト消化管に発生する内分泌細胞腫瘍、すなわち、生物学的に低悪性度のカルチノイド腫瘍と高悪性度の内分泌細胞癌とを対象とし、外科的切除および生検材料から得られた前者220個と後者51個および継代移植の内分泌細胞癌株6種(ヒト食道、胃、直腸原発)とを用いて、両腫瘍の発生、増殖、進展の特性を病理学的および分子病理学的に解析し、以下の知見を得た。 「組織発生」カルチノイド腫瘍は幼若内分泌細胞に由来することを解明した。内分泌細胞癌の組織発生経路として、その先行病変ないし母細胞は、(1)通常型腺癌、(2)多分化能幹細胞、(3)カルチノイド腫瘍、(4)幼弱内分泌細胞が想定された。高頻度の経路は(1)および(2)であり、特に、粘膜内管状腺癌深層部に発生した腫瘍性内分泌細胞クローンの選択的増殖により形成される内分泌細胞癌が最も多いことを明らかにした。 「増殖能」抗Proliferative cell nuclear antigen(PCNA)抗体を用いて増殖能を検討した。PCNA指数は、カルチノイド腫瘍では粘膜下層限局腫瘍0.7〜0.8%、固有筋層進展腫瘍4.2〜4.7%、同高異型度部分8.4%、同転移巣10.1%であり、これに対して内分泌細胞癌(固有筋層以深進展腫瘍)では、原発巣21.1〜40.6%、転移巣38.2〜61.0%であった。両者は細胞増殖能において明らかに特徴を異にすること、両腫瘍において悪性度と細胞増殖能は正の相関を示すことを明らかにした。 「培養株」ヒト内分泌細胞癌株6種がセロトニン、ペプチドYY,腸グルカゴン、カルシトニンなどを産生分泌し、母腫瘍の機能的特性を良く保持していることを明らかにした。さらに、7種類の抗癌剤を用いた感受性試験により、食道内分泌細胞癌由来株にはVincristinとMitomycin Cが有効であったが、他の株では有意な効果は得られないことを明らかにした。
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