本研究は、ヒト消化管に発生する内分泌細胞腫瘍群を対象とし、外科的切除・生検材料、ヒト内分泌細胞癌山来継代移植株4種を用いて、本腫瘍群の発生、増殖、進展の特性を、病理学的および分子病理学的に解明することを目的とした。 本研究で得られた主な成果を以下に略記する。 1.従来カルチノイド腫瘍の名称で一括されていた消化管内分泌細胞腫瘍群は生物学的に低悪性度のカルチノイド腫瘍と高悪性度の内分泌細胞癌とに大別されることを明らかにし、両者の臨床的特徴を総括するとともに、組織学的診断基準を作成して、疾患単位を確立した。 2.消化管内分泌細胞腫瘍群の組織発生を形態学的に検討し、内分泌細胞癌は粘膜内の通常型腺癌(管状腺癌)の深層部に、腺癌細胞の化生により発生した腫瘍性内分泌細胞クローンの選択的増殖により形成される頻度が最も高いこと、これに対して、カルチノイド腫瘍は幼若内分泌細胞に由来することを解明した。 3.新たな消化管カルチノイド腫瘍の分類を確立し、日本人における同腫瘍の部位別特徴を明確にした。これにより、日本人と欧米人とでは部位別発生頻度を異にすることを明らかにした。 4.内分泌細胞癌とカルチノイド腫瘍が示す生物学的悪性度の差異を、癌細胞の増殖能から解析し、前者は後者に比して、著しい高増殖能を有することから説明した。 5.ヒト食道・胃・直腸由来の内分泌細胞癌株4種を解析し、張付(3種)および浮游(1種)増殖を示すこと、creatinine kinase brain isoenzyme高値(4種)・L-amino-acid decar boxylase低値(2種)・NSE低値(3種)であること、4種ともC-myc.N-myc.L-mycの増幅はないが、2種ではc-myc mRNAは発現していること、を明らかにした。 現在、分子病理学的手法を導入して、本腫瘍群の遺伝子レベルでの解析を進めている。
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