Bacteroides fragilisのスフィンゴリン脂質を分離精製する過程で、本菌種は2種類のスフィンゴリン脂質を有することが明らかになった。すなわち、一方は極性基部分がエタノールアミンのセラミドホスホリルエタノールアミンであり、他方はグリセロールを極性基として持ってるセラミドホスホリルグリセロールである。両者は薄層クロマトグラフィー上で移動度が大きく異なり、分離が可能であった。このような極性基を有するスフィンゴリン脂質は高等生物では知られていないが、細菌では1例だけ報告されている。そこで、Bacteroides属の他の菌種についてもスフィンゴリン脂質の分布を検討してみると、多くの菌種が複数種のスフィンゴリン脂質を持っており、菌種によりその種類は変化した。一方、B.fragilisから分離精製したスフィンゴリン脂質は高等生物のリン脂質と同様に、Montal法によってテフロン隔壁にリン脂質二重層(lipid bilayer)を形成できることが明らかとなった。この脂質二重層の膜物性の重要な指標である電気抵抗や電気容量を電気的測定から求めると、高等生物由来のリン脂質のそれと類似の値が得られた。したがって、B.fragilisのスフィンゴリン脂質も生体膜構成脂質として機能することが強く示唆される。また、マウスの腹腔マクロファージを用いた実験では、B.fragilisのスフィンゴリン脂質がマクロファージの形態変化を誘起することが観察された。マクロファージは感染防御系の細胞として多くの重要な機能を有することが知られているので、この細胞の機能に対するスフィンゴリン脂質の影響をさらに詳細に検討することが必要である。
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