今年度は、成熟度の異なるラット大脳皮質培養系を用いて、gp120による異なった神経障害性を明らかにした。即ち、成熟した神経系細胞では、gp120はニューロンに障害性を示さず、オリゴデンドロサイトに機能障害を起こして、ミエリン形成を阻害した。一方、幼若な神経系細胞では、gp120添加により顕著なニューロン死を引き起こした。gp120の神経系細胞に対する結合を調べると、幼若期には主にニューロンに対して結合を示したが、成熟期にはオリゴデンドロサイト、一部の2型アストロサイトや小型のニューロンにのみ結合を示した。これらの結果から、gp120によるミエリン形成阻止やニューロン死は、神経系細胞表面分子の、発生に伴う変化と関連していることが予測された。成熟期のオリゴデンドロサイトに対するgp120の結合は、主にガラクトセレブロシドを介していることを確認しており、神経系細胞表面の糖脂質の変化とgp120の結合性に着目して、解析する予定である。これらの神経障害性がどのようなメカニズムで起きるのかは、わかっていないが、一部で議論されている、gp120中のエンドトキシンやマイコプラズマの汚染による影響の可能性については、汚染のないことを確認した。またgp120によって神経障害性のあるTNFalphaの産生もみられなかったことから、別の経路による障害性が考えられ、今後解析を進めたい。以上のことから、gp120はHIV脳症にみられる脱髄、ニューロンの脱落の一つの原因となっている可能性を示唆することができた。
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