研究概要 |
採血は被験者にとって苦痛であり、ウイルス感染症疫学的研究では血液採取の協力を得るのが困難なことがある。唾液は血液に比べて採取が容易であり、被験者に苦痛を与えないなどの利点がある。本研究では、特異抗体を高感度に測定するアビヂン・ビオチン複合体を利用したABC-ELISA法を確立し、唾液中の各種ウイルス抗体の検出を試み、疫学研究における唾液抗体検出の有用性を検討した。看護学生(NS)138人、医学部学生(MS)55人、個室付特殊浴場従業女性(SB)191人から得た単純ヘルペスウイルス(HSV)抗体に関する成績(発表論文要旨)を以下に概説する。 1)血清でのHSV抗体陽性45例、陰性84例における唾液中の抗体検出成績は、間接ELISA法では偽陰性が7例であったが、ABC-ELISA法では偽陰性例が3例に向上し、血清に類似した検出率が得られた。2)唾液でのHSV抗体測定の感度、特異度は、血清を基準にするとABC-ELISA法では各々93%,100%であった。3)NS1年、2年生及びMS群の血清抗体陽性者の内で、唾液での偽陰性例は各々1例(約3%)であった。4)血清と唾液とのHSV抗体価の相関係数はr=0.725と高く、有意な相関係数であった。抗体偽陰性例のすべてが血清の抗体価は低い値であった。5)唾液のHSV抗体保有率はNSの44%に比べて、SB群の20歳代では65%と有意に高い抗体保有率であった。SB群は,30歳代で89%、40歳代で94%と年齢が増すにつれて、抗体保有率も高率になっていた。6)NS群の唾液でのHSV抗体保有率は、横浜市内住民の年齢階級別の血清中のHSV中和抗体保有率の成績(20歳代は41%)と一致していたが、SB群は各年齢層共に有意に高い抗体保有率で、HSV感染リスクの高い集団であることが示された。以上の成績から、HSVの蔓延率を知る疫学調査・研究において、唾液からも血清とほぼ同様の抗体保有分布の成績が得られることが示唆された。
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