Biliary glycoprotein I(BGPI)について、今年度は肝疾患とくに肝細胞における発現を、mRNAおよび蛋白のレベルで検討し以下の結果を得た。1)培養細胞株におけるBGPI mRNAの発現をノーザンブロット法を用いて検討した結果、胃、大腸、膵、肝、および肺癌組織由来細胞株において3.9kbの単一バンドを認め、これまで胆汁中のCEA関連抗原として考えられていたBGPIが広い組織分布を示すことが示唆された。 2)大腸組織においては、癌部と非癌部の間でBGPI mRNA発現レベルの明らかな差を認めず、癌部で発現の上昇するNCA mRNAとは異なる傾向にあった。3)肝組織においては、検討した6例すベての癌部および非癌部にBGPI mRNAの発現を認め、両部の間で明らかな発現レベルの差を認めなかった。さらにin situ hybridization法でも癌部およビ非癌部の細胞質に明らかなシグナルが検出された。これらの結果から、これまで議論のあった肝細胞癌において見い出されるCEA類似抗原の少なくとも一部はBGPIであることが示唆された。 4)胆汁より作製したBPGI粗抗原を用いてウェスタンブロット法を行った結果、MoAb P1-255および抗CEAポリクローナル抗体により110kDaと85kDaのバンドが検出され、本抗体がBGPIに反応することが示された。 5)MoAb P1-255を用いて、肝癌組織の免疫組織学的検討を行った結果、染色強度は非癌部において最も強く、細胞質と毛細胆肝管が陽性であった。癌部では主に偽腺管内腔が染色され、分化度が低下するに従って反応性も低下する傾向であった。最近BGPIにin vitro細胞拠凝集活性が証明されており、肝細胞におけるBGPIの生理学的役割をトランスジェニックマウス等を用いて明らかにすることが本抗原の病態生理学的意義を知るための手がかりを与えるものと考えられる。
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