研究概要 |
内視鏡的生検により得られた胃,空腸および大腸粘膜上皮細胞を対象に,刺入電極法による細胞内電位の測定,さらにカレントクランプ法による細胞膜の電気的抵抗の測定を試みた.[成績](1)胃粘膜:非病変部胃粘膜被蓋粘液細胞の細胞内電位は30分以内-49mV,1時間以内-46mV,2時間以内-37mV,2時間以降-19mVであり,生検後の有意な経時的細胞内電位低下が認められた.最高電位は採取後30分以内の-6(2)4mVであった.細胞膜電気的抵抗は,2時間目までは有意な変化はなく約13MΩであったが2時間降では有意な低下が認められた.2.大腸粘膜:大腸粘膜上皮細胞内電位は胃粘膜被蓋粘液細胞のそれに比して有意に低値を示した.大腸粘膜では30分以内-39mV,1時間以内-35mV±12.3mV,2時間以内-24mV±3.4mV,2時間以降-12mV±5.6mVであり2時間以内および以降で有意な低下を認め胃粘膜に比して低かった.細胞膜電気的抵抗では有意な経時的変化は認められなかった.(3)空腸粘膜:30分以内では-36mV,1時以内で-34±12.3mV,2時間以内-29±3.4mV,2時間以降で-11mVであり2時間以内,以降で有意な低下を示した.これらは胃粘膜に比して低かった.また,大腸と同様,細胞膜抵抗には有意な経時的低下は認められなかった.[結論](1)内視鏡的生検で得られた胃,大腸および小腸粘膜は採取後,出来るだけ速やかに実験に供したが,採取後細胞内電位は緩徐な経時的低下を認めた.しかし採取後2時間目までは,生理学的検討の材料として充分な細胞内電位および細胞膜の電気的抵抗が保たれていた.(2)内視鏡的生検材料の応用は従来より,もっぱら動物実験として行われてきた消化管粘膜の細胞レベルでの生理学的検討を,ヒト消化管粘膜に応用できる有効な手技であると考えられ,現在,さらに検討を続けている.
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