研究概要 |
肝移植術後の致死的な合併症のひとつである門脈、肝動脈の血栓症を早期に発見し得る生化学的マーカーの開発を目的にして実験を行ってきた。動物実験により門脈、肝動脈血流を遮断したラットから経時的に採取した血清中に遮断時間に対応して変動する物質が存在することをHPLC法による分析で見いだし、この物質を抽出、精製し紫外吸収分析を行なったところ尿酸であることを確認した。さらに、動物実験から血清中の尿酸値は肝血流遮断直後より直線的な上昇を示し、遮断解除により尿酸値は下降傾向を示したのに対し既存の肝逸脱酵素であるAST,ALT,LDHは遮断中は殆ど変化せず、かえって遮断解除により上昇するという結果が得られた。今年度は肝血流遮断時に著しい尿酸産生が行なわれる臓器の特定を行ない鬱血により低酸素状態に陥った腸管が主たる尿酸産生臓器であることを明らかにした。また、人間の肝切除術、生体部分肝移植術に得られた血清の分析からも動物実験と同様に肝血流を遮断した際に尿酸値が上昇することを確認した。このことから肝血流障害の早期発見のマーカーとしては尿酸値の連続測定がGOT,LDHなどの既存の肝逸脱酵素よりも診断能として有効であることが示された。肝切除術、肝臓移植術の周術期における肝血流障害を早期の診断することは究明のキ-ポイントであるが、それらの早期診断に尿酸値の連続測定は肝血流障害の有効なマーカーになり得ることが示唆された。
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