研究概要 |
担癌宿主の免疫能低下の機序については不明な点が多い。最近,マウスの担癌モデルにおいて脾臓内にリポコルチン-1を産生するマクロファージが出現し,免疫抑制的に働くことが発見された。いわゆるサプレッサーマクロファージの一つと考えられるが,人癌におけるリポコルチン-1産生マクロファージの存在あるいは各種免疫反応に対するリポコルチン-1の効果についてはほとんど知られていない。本研究は担癌患者におけるリポコルチン-1産生マクロファージの同定と生物学的意義の解明を目指すものである。本年度の研究成果を以下に述べる。1.腫瘍局所におけるリポコルチン-1の発現を酵素抗体間接法による免疫組織染色にて検討した。胃癌,大腸癌の腫瘍間質内に局在するマクロファージ系細胞の一部に染色性が認められ,リポコルチン-1産生マクロファージの存在が示唆された。しかし染色性は強いものではなく,染色方法の改善あるいはin situ hybridizationによる検出が必要と思われる。また,リポコルチン-1陽性細胞の性状を明らかにするために,2重染色法によって細胞表面マーカーの解析を進めている。2.人の免疫反応に対するリポコルチン-1の影響については健常人と担癌患者の末梢血リンパ球の幼若化反応について検討した。ConA,PHA,PWM,IL-2添加培養系にリポコルチン-1を各種濃度で加えたところ,DNA合成能はリポコルチン-1の用量依存性に抑制され,最大40%の抑制率を示した。一方,この培養系に抗リポコルチン-1抗体を添加したところ抑制解除の傾向を認め,リポコルチン-1特異的な抑制機構であることが示された。以上から人癌においてもリポコルチン-1産生マクロファージによる免疫抑制機構が存在する可能性は極めて高いものと推察された。
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