研究概要 |
<自立神経薬の心電QRS高周波数電位に与える影響の検討:交感神経支配不均等の薬理学的背景> 【方法】VCM-3000を用い、signal-averaged ECGの方法により心電QSS成分の高周波数電位(80-300Hz)を求めた。Ratの体表面の5ケ所に電極を設置し、心臓に対してほぼ直交するX,Y,Zの3方向の電位を1つに束ね、√<X^2+Y^2+Z^2>の大きさを持つベクトル電位を作成し、加算平均し、80-300Hzの周波数帯でQRS成分の平均電位(RMST)と持続時間(QRSD)を測定した。自立神経薬として静脈系からpropranolol(0.1mg:β遮断)、adrenaline(0.1mg:α、β刺激)、isoproterenol(0.004mg:β刺激)、phentoramine(0、5mg:α遮断)をbolusに投与し、その前後でRMSTとQRSDを測定した。また、propranolol(0.1mg)投与後にadrenaline(0.1mg)を投与する群も追加した。統計学的検討はpaired t testを用いた。 【結果】propranolol投与ではRMSTは34±12μVから29±13μVまで低下し(p=0.0120)、QRSDは76±11msecから82±12msecまで延長した(p=0.0033,n=8)。adrenaline投与ではRMSTは35±12μVから44±12μVまで増加し(p=0.0013)、QRSDは76±9msecから69±7μVまで短縮した(p=0.0092,n=6)。始めにpropranolol投与後adrenaline投与群でもRMSTは20±3μVから24±4μVに増加し(p=0.0252)、QRSDは78±9msecから71±8msecまで短縮した(p=0.0055,n=5)。isoproterenolの投与後、RMSTは28±4μVから20±6μVに低下し(p=0.0024)、QRSDは71±12msecから86±13msecまで延長した(p=0.0165,n=6)。phentoramineの投与ではRMSTは30±5μVから28±8μVまで低下し(p:NS)、QRSDは77±5msecから88±6msecまで延長した(p=0.0157,n=5)。 【考察】QRS高周波数成分の電位(RMST)と持続時間(QRSD)は自立神経薬に影響を受けた。アドレナリン作動性受容体のα受容体遮断とα受容体刺激は正反対の結果を示し、α刺激は高周波数成分を増し、速い伝導を示した。しかし、β受容体遮断とβ受容体刺激は高周波成分の変動については同じ結果を示し、いずれも高周波電位の低下と伝導の遅延を示した。この背景にはβ受容体遮断はCa脱分極電流を減少させるが、一方、β刺激はNa脱分極電位をcAMPを介して抑制すると考えられており、結果としてβ遮断と同じく高周波電位の減少と伝導の遅延をきたすと考えられた。頻拍発作の成因として左右交感神経系の不均衡の関与を考える場合、noradorenaline刺激が引き起こすβ受容体興奮は必ずしも伝導の促進を意味せず、遅い伝導を局所的に増加させ、心室性不整脈の背景となる可能性が示唆された。
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