先天性QT延長症候群では心臓に対する右側交感神経機能が先天的に低下し、相対的に左側交感神経機能は優位となるため左右の交感神経緊張にアンバランスが生じ、致死性不整脈(心室頻拍、心室細動)発作の背景となっていると考えられている。体表心電加算平均法を用いた高周波数電位の測定は、この交感神経の左右の不均衡を非侵襲的に判定できる新しい方法であることが本研究の結果判明した。即ち、ラットの左側星状神経節を電気刺激し、左側優位の交感神経支配を実験的に惹起させると、心拍数の低下とともに40-300Hzの周波数成分においてQRS伝導時間の遅延が認められた。自律神経薬のうち純粋なβ受容体刺激薬であるisoproterenolをbolus injectionすると、同じく伝導時間の遅延が認められた。ただし、この場合は心拍数は増加し、電位は低下した。 Schwartz PJらによれば、左側星状神経節の刺激は右側星状神経節の抑制を引き起こすため、心拍数に対する両者の差は説明可能である。カテコラミンが優位な状態での伝導の遅延(高周波電位の減少)が測定可能な体表心電加算平均法を用いると、先天性QT延長症候群の病態の把握と治療の効果を、非侵襲的にかつ定量的に判定することが可能であると考えられ、その外科治療である胸部交感神経節切除の効果判定に有力な指標を与えると考えられた。
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