研究概要 |
in vitroおよびin vivo腫瘍モデルでの研究により、腫瘍の浸潤・転移の過程に腫瘍細胞の運動性が重要な役割を演じていることが示されてきた。今回、高度な浸潤性増殖を示す悪性グリオーマ細胞の培養上清より自己の運動性を高める因子(グリオーマ由来運動性因子:GDMF)を分離精製し、グリオーマ浸潤におけるGDMFの役割ならびに運動能の発現制御について検討を行った。ヒト悪性グリオーマ細胞株T98Gの大量培養を行い、無血清培養上清を得た。濃縮後、gelatinアフィニティーカラムによりフィブロネクチンを除去した後、順次、heparinアフィニティー,DEAE陰イオン交換,ヒドロキシアパタイト,ゲル浸透,SP陽イオン交換の高速液体クロマトを行い、GDMFを精製した。SDSポリアクリルアミド電気泳動上、分子量145,000および165,000の2種のGDMF(各々GMF-IおよびGMF-II)が単一標品として得られた。これらはいずれもT98G細胞の運動能を用量依存性に高めたが、GMF-Iは約500pMの濃度で運動活性を示し、GMF-IIに対し約5倍高い活性を有していた。一方、アミノ酸組成分析の結果、両運動性因子は極めて類似したポリペプチドであることが示唆された。塩基性線維芽細胞成長因子をコントロールとしたT98Gグリオーマ細胞および正常ラットグリア細胞の増殖促進活性の測定により、両運動性因子ともこれらの細胞の増殖には影響を与えないことが明かとなった。精製GDMF標品を用いて、各種グリオーマ細胞の運動能を測定し、Matrigelを用いたinvasion assayおよびザイモグラム上のコラゲナーゼ活性との関係について検討した。GDMFに対する各種グリオーマ細胞の反応性はMatrigelを介した浸潤能と良く相関したが、コラゲナーゼ活性と浸潤能との間には有意な相関は見られなかった。また、正常ラットグリア細胞はGDMFにほとんど反応を示さないのに対し、不死化グリア細胞では比較的高反応を示し、特に変異p53陽性不死化グリア細胞では更に強い運動性を示した。このことは、不死化細胞の段階で既にGDMFの反応性を獲得しており、p53遺伝子の変異により、GDMFに対する運動性の増幅がもたらされる可能性を示唆しており、GDMFを用いて、運動能の制御に関する分子メカニズムを明らかにすることを今後の研究課題とする予定である。
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