呼吸不全発症の一因子として注目される横隔膜筋疲労の発生メカニズムとして、横隔膜の血流低下に伴う酸素需給バランスの関与を想定して、本研究を計画した。 本年度はイヌを用いて、横隔神経、血管系を温存した横隔膜のInsituの灌流標本を作成し、横隔膜血流低下に伴う横隔膜収縮力の変化を検討した。具体的には左右横隔動脈にカテーテルを挿入し、大腿動脈より脱血した動脈血をポンプを介して返血し、そのポンプ流量を変化させることにより、横隔膜血流量をコントロールした。実際の横隔膜血流は横隔静脈に挿入したカテーテルよりの流出量として計測した。この横隔膜灌流モデルの作成における技術的な問題点は克服された。しかし、横隔静脈からの流出量として計測される横隔膜血流量が、横隔膜動脈血流量の低下にも関らずある限度以下に低下しない個体が認められた。結果として安静呼吸時の経横隔膜圧較差があまり変化しない場合があった。この原因としては、横隔膜の血流が左右の横隔動脈のみならず、内胸動脈系や助間動脈系からもあり、これらの血流量が代償的に増加している可能性が示唆された。横隔膜のfatiguabilityは増加すなわち、筋疲労が起きやすくなる傾向が認められたが、やはり個体差が大きい印象がある。以上述べたようにこの実験モデルでは横隔膜のflow limitation生じさせ得るが、それ自体の程度およびその筋収縮力に与える影響が個体によりばらつきが大きい可能性が示された。
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