研究は単クローン抗体の準備、その抗体による抗原の精製、および抗原蛋白質のアミノ酸配列分析の三階段を計画していた。 抗原精製に必要な大量の単クローン抗体を準備するために、当初は抗体産生細胞の大量培養を計画していたが予想外に多額の費用を必要とするために、マウスでの腹水化に変更した。だが、今回の抗体産生細胞は極めて腹水化されにくく固形腫瘍を作る傾向が強かった。そのため特殊な工夫を加えなければならず、抗原精製用の免疫アフィニティクロマトグラフィに十分な量の腹水を確保するために予定外の長期間を要した。従ってこの報告書作製の段階で、ようやく当初の計画の第一段階を達成したところである。しかし、今回用いる抗体産生細胞から十分量の抗体を得ることが、この研究の最大の難関ではないかということを最初からある程度覚悟していたので、現在の進行状況もやむを得ないかと思われる。予定していた抗体が準備できたので、それ以降の二段階は比較的短期間に実現できるのではないかと予測している。 この研究の最終目標は抗原蛋白質の生理機能の解明にあるので、そのための情報を少しでも増やすために、腹水化を待つ間に前立腺癌におけるこの蛋白質の臨床的意義について検討した。その結果、前立腺癌組織切片の癌細胞のうち50%以上にこの蛋白質が存在する症例群の転帰は、50%未満の群と比較して統計学的に有意に良好であることが判明した(1992年、第51回日本癌学会総会)。前立腺癌におけるこの蛋白質の新しい腫瘍マーカーおよび予後因子としての価値は、一次構造解析のための強い意義付けになるものと考えている。
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