研究概要 |
1)ヒスタチン類の定量法の開発及び唾液内の性状と動態: ヒト唾液から塩酸酸性メタノールでヒスタチンを抽出し、逆相法による高速液体クロマトグラフィーによってヒスタチン1、3、5及び6を迅速に同時定量する方法を考案した(J.Chromatography 619、306,1993)。その結果、ヒスタチン類はヒト唾液中では高分子の酸性成分と結合して存在しており、健常人の総ヒスタチン濃度は平均28.6μMであった。その唾液分泌量は若年齢者群の方が高年齢者群より高い傾向を示したが、唾液蛋白量当たりでは両者に差はなかった。またその分泌量には男女の性差は認められず、分泌の日内リズムも認められなかった。ヒスタチン類は口腔内に分泌された後、唾液中の複数の中性のプロテアーゼなどによって分解されたが、ヒスタチン3から5へ特異的な分解は認められなかった。 2)ヒスタチン類の好中球機能の調節作用: ヒト及びモルモットの好中球は培養プレート内で刺激剤の非存在下にH_2O_2を産生した。このH_2O_2産生はフィブロネクチンでプレートを塗布することによって阻止された。この条件下でおこるfMLPによるH_2O_2産生はヒスタチン類によって抑制された。これはヒスタチンが受容体を介する活性酸素の産生を特異的に抑制することを示すものである。しかし好中球の遊走や貪食に対しては抑制しなかった。 以上の知見はヒト唾液中には一定量のヒスタチンが恒常的に分泌されており、細菌類には直接的な殺菌作用として働き、一方好中球の過度の活性酸素産生を調節して口腔粘膜の保護に役立っていることが示唆された。
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