今日、顎機能異常の治療法にはさまざまな方法が用いられているが、中でも筋過緊張、疼痛の緩和、咬合高径の回復などを目的として咬合を挙上させる「バイトスプリント」が広範囲に応用されている。しかし、バイトスプリントの咬合挙上量についての明確な指針は少ないばかりでなく、咬合挙上による奏効機序もいまだ明らかにされていない。 今回我々は、上下顎間に実際に装着物を介在させ、咬合力に対する挙上量の影響を解析することを目的とした。そこで最初に、古くから顎関節症における原因のひとつとして挙げられているクレンチングの中で、特にクレンチング後における咬合力発現機構の動態について解析を行い条件咬合力として用いたクレンチング後における、試験咬合力として用いた記憶し視覚的フィードバックなしで再現させた基準咬合力について経時的変化を観察した。その結果クレンチング後再現された実際の咬合力は、基準咬合力に対して約15秒以上持続する正方向への誤差が観察された。この効果はクレンチングの持続時間ならびにくり返し回数に依存して変化する傾向が見られた。次に、それぞれ3mm、5mm、9mm咬合挙上量における同様な実験を行い、効果の比較を行った。 以上の結果からクレンチング後の、筋過緊張、疼痛などの機能異常に直接関連する可能性の高い、持続性を持った特徴的効果を促えることができた。さらに、この効果に対する咬合挙上量の影響を観察することは、バイトスプリントの奏効機序を解明する上で重要であることが明らかとなった。今後、咬合挙上にともなう筋長の変化における機械的要素、ならびに運動ニューロンへの入力機構の問題を含めて、さらなる検討を加える予定である。
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