癌化学療法において癌の組織型の違いや用いる薬剤の種類により感受性が異なることが知られている。細胞によるこれら薬剤の取込みの差は薬剤そのものの性状と細胞膜の極性によって左右させられる。そこで組織型の異なる口腔癌細胞の膜の極性を明らかにするために、初年度において、無血清培養系を用いて数種類の口腔由来扁平上皮癌細胞(SCC)、唾液線由来腺癌細胞(SAC)ならびに正常口腔粘膜上皮細胞の脂質合成能を解析するとともに細胞膜脂質組成をブライ-ダイヤー法で脂質を抽出し分析を行なった結果、SCCにおいては細胞膜脂質の80%以上はリン脂質でありその他はおもに遊離型コレステロールであることが明らかとなった。一方、SACにおいては膜脂質の大部分はトリグリセリド及び遊離脂肪酸等からなる中性脂肪であり、リン脂質は全脂質の20%以下でありSCCとSACの細胞膜脂質は大きく異なっていることが明らかとなった。したがってSCCの細胞膜の極性はSACのそれに比べて非常に高いことが明らかとなった。次年度においては、無血清培養法を用いて、BLM、PLM、CDDPならびにCDBCAなどの各種癌細胞における取り込みと抗腫瘍効果を検討した結果、極性の高いブレオマイシンやペプロマイシンはSACと比べてSCCに対して高い取り込みと抗腫瘍効果を示した。一方、極性の低いシスプラチンやパラプラチンはSCCに対するよりもSACに対して高い取り込みと抗腫瘍効果を示した。このように種々の抗癌剤の抗腫瘍効果は細胞膜の脂質組成(極性)を反映していることが明らかとなった。したがって癌細胞の膜の脂質組成と同じ組成の脂質と抗癌剤との複合リポゾームを作製することにより、感受性の低い細胞に対しても高い抗腫瘍効果を得ることが可能となり、また副作用を軽減することが出来ると考えられる。
|