研究概要 |
上顎発癌モデルの開発を目標として実験を行い、以下の結果が得られた。1.9,10‐dimethyl‐1,2‐benzanthracene(DMBA)の5%溶液を溶媒としてdimethyl sulfoxide(DMSO)を用いて調製し、25μl(1.25mg)を週1回エーテル麻酔下に、雄シリアンハムスターの左眼窩下孔より上顎洞内へ投与した。対照にはDMSOのみを投与した。DMBAを10あるいは20週投与し、実験開始より30週で実験を終了したが、その間4匹が死亡した。頭部はホルマリン固定・脱灰後、鼻腔・上顎洞全額断面を出し腫瘍の有無を観察した。次にパラフィン包埋し、切片を作製してH‐E染色を行った。DMSO投与の9匹では、鼻腔・上顎洞に腫瘍はみられなかった。DMBAの10回投与群では4/7(57%)に、20回投与群では、4/4(100%)に腫瘍が認められた。これらは、中等度あるいは高度分化型の扁平上皮癌であった。2.diethylnitrosamine(DEN)による腫瘍誘発にも24匹の動物を用い、2%DENの200μl(4mg)を週1回、10週間皮下投与した。10週間放置し、鼻腔・上顎洞での腫瘍形成につき検索した結果、生残した23匹の6匹(26%)に鼻腔・上顎洞腫瘍が認められた。これらは、未分化癌、神経上皮腫であった。以上より、DMBAの上顎洞内投与法は、鼻腔・上顎洞の扁平上皮癌誘発には、従来のDENの皮下投与法よりも優れていると考えられた。ヒトの上顎洞癌の大部分が扁平上皮癌であることから、ヒトの癌と類似しており、この系を用い各種物質のプロモーター活性を検討することも可能になると思われる。微生物としてヘルペスウイルス(HSV)は発癌との関連性が強く、続いてHSVと鼻腔・上顎発癌との関係を追求する方針である。そこで、本研究に関連して、HSVの粘膜感染の実験を行い、HSVと基底膜の接合にヘパランサルフェイトが重要な役割を果たすことも明らかとした。
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