口唇製ラット作製にあたり、先ずレーザーによる子宮内手術の手技を碓立しなければならず、比較的成功率の高いマウスをラットに代えて用いる事とした。即ち、胎生14日の母マウスを開腹後、子宮壁を切開しレーザー光を用いて胎仔に熱傷を与えた。装置としては、眼科用アルゴン/ダイレーザー光凝固装置を使用し、出力2W、投射時間は、0.5秒とした。本法によれば、レーザーの光束は、羊膜を通して、胎仔の上皮に集束させる事が可能であり、羊膜を損傷せずに、胎仔の鼻口唇部に熱傷を与える事ができた。このようにして胎仔に熱傷を与えた後、母マウスの開腹部を縫経合し、そのまま胎内で18日目まで飼育した。帝王切開により胎仔を取り出し、これを同日自然分娩したマウスを里親として育てさせた。これらのマウスにおいて出生後の成長の観察を正常仔との比較において行った。以上の操作により行った実験の結果は、次の通りであった。羊膜を通してレーザー照射を行った際、胎仔の鼻口唇部レーザー光の当たった部位は白くなり、組織に変成が起こっている事が確認された。帝王切開により母獣より摘出した直後の新生仔について観察を行うと、レーザー光による熱傷の程度はまちまちであり、微小なスポット状の実質欠損を伴った個体も見られたが、現在までの所、いわゆる口唇裂様の実質欠損を伴った標本の作製は達成されていない。また、いづれの固体においてもレーザー照射部位に、熱傷作製時におけるような上皮の変成像や、強い炎症の所見等は認められなかった。さらに、出生後10日を経て生育中の仔マウスは、鼻口唇部に左右差が認められ、レーザー照射を行った側に明らかな劣成長が認められた。
|