薬物の光学対掌体間で観察される代謝速度の違いは、代謝酵素への親和性の差で説明される。一方、肝における水酸化反応には複数のチトクロームP-450が関与することが示唆されており、その発現量の違いが個体間での代謝様式の差異の要因とも考えられている。他方、P-450は同一の分子種が薬物のみならず内因性のステロイドホルモンなどの代謝にも関与しており、薬物がステロイドホルモンの代謝にも間接的に影響を与えることが予想される。そこで光学異性薬物の例としてβー遮断薬ブフラロール(Buf)を取り上げ、そのエストロゲン(Es)代謝への影響を検討した。 まず、光学純度の高いBuf光学対掌体、ならびにEs代謝物標品23種を合成した。次いで、光学活性BufをC3H系雌性マウスに経口投与し調製した肝ミクロソーム画分と、[^<14>C]エストラジオールをNADPH存在下インキュベートし、二次元薄層クロマトグラフィーによりEsを分離した。これをオートラジオグラフィーに付し、標品との比較により代謝物を同定後、それらの放射活性により定量した。一方、信頼度に優れるガスクロマトグラフィーーマススペクトロメトリー(GC-MS)に着目し、フェニルホウ酸結合シリカカートリッジを用いる分画法と組み合わせたEs代謝物の一斉分析法を確立し、さらに検討を加えた。その結果、S-Buf投与により代謝物中の16α水酸化体の生成比がR体のそれに比し大きく増大することが判明した。これは、薬物によるEsの16α水酸化酵素活性調節の可能性を示唆するものであり、極めて意味深い。
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