平成5年度は、前年度に継続して精神分裂病患者2事例について8mmビデオカメラを用いた観察を含む看護ケアの観察を行った。その傍らデータの継続的比較分析を行い、2年間に提供された看護ケアの分析のまとめを行った。 その結果として、病院全体のシステムの中で2事例にどのような看護ケアの種類や機能が提供されたかということと、それらの看護ケアのなかで普遍的に用いられていたコミュニケーションの技術とその意味付けの大きく2つの要素が抽出された。 看護婦は、看護婦対患者の対人関係を軸とした看護ケアを提供している。患者が社会と結びつくためには、コミュニケーションの技術を駆使してゆく必要があるが、長期入院を強いられた患者においてはとくにその技術は未熟であり、看護婦との間の安全な人間関係を基盤としてコミュニケーションの技術を再獲得してゆく必要がある。看護婦は、患者自身にどのような生活を送れる可能性があるか、そしてどのような生活を送る権利があるかという具体的なイメージを提供し、患者の自立への意志を探り、また強化しながら看護ケアを提供していた。 精神分裂病患者の社会復帰に有効な看護ケアはこの2つの要素が複合的・有機的に関連しあいながら一貫した姿勢で提供されるものであった。今回は病院を中心として病院の社会復帰病棟の看護婦が提供する看護ケアの分析であり、今後このような技術が病院に特徴的なものであるかどうか、また地域の保健婦など他の看護婦にも普遍的なものであるかどうかなど、場を変えて継続的に分析するための基本的な要素が明らかになった。
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