本年度は、主に血液細胞におけるglycophorin Aのcriptic antigenである。sialosyl-Tn抗原の発現について検討した。sialosyl-Tnは、赤血球には発現しなかったが、赤芽球と赤白血病細胞に発現が認められた。正常血液前駆細胞の検討では、CD34陽性細胞にはsialosyl-Tn抗原の発現は認められなかった。健常ヒト骨髄細胞から、単球、T細胞およびB細胞を除いた後、sialosyl-Tn陽性細胞を磁気ビーズを用いて採取し形態を観察した。sialosyl-Tn陽性細胞は、各種分化段階の赤芽球と一部芽球様細胞からなっていた。この分離したsialosyl-Tn陽性細胞のコロニー形成能の検討から、sialosyl-Tnは、BFU-EおよびCFU-GMには発現せず、CFU-Eに発現することが判明した。sialosyl-Tnは、glycophorin Aとは異なり成熟赤血球に発現しないことから、sialosyl-Tn抗原は、赤血球の分化および赤血球の骨髄から末梢血への放出に関与していることが示唆された。一方、sialosyl-Tn抗原は、ほとんど全ての成熟B細胞とCD4陽性T細胞の一部にも発現が認められ、B細胞型の慢性リンパ性白血病細胞や悪性リンパ腫細胞、CD4陽性の成人T細胞型白血病細胞にも発現が認められた。しかし、急性リンパ性白血病細胞には発現が認められなかった。正常骨髄細胞での検討では、sialosyl-Tn抗原は、CD10陽性のB前駆細胞にはほとんど発現していなかった。以上から、sialosyl-Tn抗原は、B細胞においては成熟B細胞にのみ発現することが示唆された。成熟B細胞に発現するsialosyl-Tn抗原の本態は不明だが、CD22に発現パターンが類似していることが示唆された。また、より構造の簡単なTn抗原は、検討した全ての細胞で発現は認められなかった。
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