研究概要 |
CF#1/Ohuマウスは奥羽大学で近交系化され、1991年に自然発症口蓋裂が見いだされた。CF#1を口蓋裂のモデル動物として確立するために、他の研究機関でも継代維持されているCF#1のうち、東大医科研のCF#1/Jmsおよび農水省家衛試のCF#1/Jahについて自然発症口蓋裂の有無を調べた。また、口唇・口蓋裂モデルマウスとして著名なA/JおよびCL/Frマウスとの遺伝的差異を明らかにするために、CF#1の生化学的・免疫学的標識遺伝子、計36座位の遺伝子型を検索した。 結果:CF#1/Ohuに見いだされた口蓋裂は、CF#1/JmsおよびCF#1/Jahにも認められ、3系のCF#1に共通して自然発症することが明らかになった。また発症頻度はいずれも約3%であり、その裂奇形には唇裂および唇顎口蓋裂はまったく認められず、すべて口蓋裂の単独発症であった。この様な裂奇形の表れかたは、A/Jが唇顎口蓋裂と口蓋裂を、CL/Frが唇顎口蓋裂と口唇裂をそれぞれ7:3の割合で自然発症することと比較して、CF#1がこれらのマウスとは異った遺伝的素因を有していることが示唆された。一方、生化学的・免疫学的標識遺伝子の計36座位の遺伝子型を検索した結果、用いた3系統のCF#1はいずれも同一系統内で変異がなく、検索したすべての遺伝子座はホモ型を示し、3系とも近交系化が確認された。CF#1とA/JおよびCL/Frとで対立遺伝子型が認められた座位はMod-1,Thy-1、Msp-2およびH-2Dであった。これまでにA/Jを用いた口蓋裂遺伝子の探索でH-2連鎖説が報告されているが、CF#1はマウスのHLAであるH-2ハプロタイプがH-2k(K)とH-2D(K)であるのに対して、A/JおよびCL/FrはH-2k(K)とH-2D(D)であった。 考察:これらのことからCF#1は、表現型としての裂奇形およびH-2などの遺伝子型がA/JおよびCL/Frとは異なり、さらにCF#1が口蓋裂の単独発症系であることは、ヒトの口蓋裂における血族罹患者に口蓋裂のみが認められ、唇顎口蓋裂と口唇裂が認められないることと一致し、口蓋裂疾患の新しいモデル動物として極めて有用であることが示唆された。
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